第20代韓国大統領選挙は3月9日に投開票される。革新系与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事(57)と、保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長(61)との事実上の一騎打ち。尹氏優勢との見方もあるが、史上まれにみる接戦となりそうだ。
選挙戦ではスキャンダルの暴露合戦や派手なパフォーマンスが目立ったが、日韓関係はどうなるのか。8日に引き続き、神戸大学大学院国際協力研究科・木村幹教授(韓国政治研究)に聞いた。
![京畿道知事時代の李在明氏演説<2019年9月19日 画像提供・木村幹さん>](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2022/03/%E9%9F%93%E5%9B%BD%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E9%81%B8%E3%83%BB%E6%9D%8E%E5%9C%A8%E6%98%8E%E5%80%99%E8%A3%9C%E3%80%802019.9.19-2-1024x768.jpg)
■気になるのは今後の日韓関係。李氏と尹氏、どちらが良好なパートナーになれるか?
文政権でことごとく冷え切った日韓関係、今すぐに、良い展望は描きにくいが、はっきり言えるのは、韓国大統領選で日本に関わる問題はほとんど議論されていないことだ。
テレビ討論会で外交・安全保障についての議論を進める際、北朝鮮、中国、アメリカ、日本などとの外交についての討論で、司会者が「とりわけ日韓関係は冷え切っていますね」とわざわざ話を向けたのだが、誰も触れなかったのだ。候補者が全員、反日だからあえて触れないのかという意見もあるかも知れないが、本当に反日ならば、日本バッシングをして競い合うはず。それが日韓を語らないのは、時間が限られた候補者討論会で、”有権者に受けるマニュフェスト”ではないからだ。むしろ外交の話題は中国であり、李氏は「中国との経済関係は重要」、尹氏はこれに反し「中国の脅威と向き合うには、アメリカとの関係を強化して国防を強化する」ということがメインだった。
選挙戦での議論でアピールされるのは、大多数が関心を持っている政策に限られるのは日本でも同じで、個々に進める政策とはまた違う。例えば、昨年7月の兵庫県知事選挙で、明石公園の木の伐採をどうするということや、誰を副知事にするのかということなどを、公開討論会や街頭演説でと滔々と述べないのと同じ感覚でとらえればわかりやすいかも知れない。
![「選挙戦で日韓関係がクローズアップされることはなかった」](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2022/03/%E6%9C%A8%E6%9D%91-%E5%B9%B9%E3%81%95%E3%82%93%E3%80%802022%E2%91%A0-1-1024x768.jpg)
確かに、公開の場で日韓関係は語られることはなかったが、両候補が全く関知していないというわけではない。
明らかに尹氏は中国に対して強硬だ。尹氏は検事逮総長出身であり、保守の政治家ではない。そのあたりはライバルの李氏から「初心者の候補者」と揶揄(やゆ)されているが、逆に財界との関係や癒着がないということでもある。ある意味、クリーンなのだが、韓国の財界は中国のマーケットに依存しているため、本来ならば中国を持ち上げて大事にするはず。それが尹氏は対中国への強硬政策を打ち出し、自国の軍事力と、アメリカとの同盟関係を重視したのがポイントで、日本もアメリカと同盟である以上、韓国はアメリカと日本との安全保障上の関係を重要視することになる。
間接的な流れになるが、尹氏が大統領になれば、日韓関係を優先課題とするのではなく、中国と対抗する結果、日韓関係を改善すべきという流れになるのではないか。ただ、これらはあくまでも、安全保障上のことなので、歴史認識問題や経済問題で韓国が日本に何かしらの譲歩をすることはないだろう。
一方、李氏は中国に対して融和的で、軍事的な刺激を与えてはいけない主義を貫いている。そこには日本の重要性に言及するすき間もない。李氏は左派でありながら別名「韓国のトランプ」と呼ばれ、演説で刺激的な言葉を使うスタイルで、日本に対しても厳しい言葉を連発する。当意即妙の能力を持っているが、外交面で恐れるべき点はいくつかある。
![](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2022/03/-%E5%B9%B9%E3%81%95%E3%82%93%E3%80%802022%E2%91%A4-e1646719238847-1024x752.jpg)
外交上でトランプ元大統領に振り回された立場ならわかるであろうが、2019年2月のベトナム・ハノイでの米朝会談。交渉内容から「妥協した方が不利だ」と察したトランプ氏は、突然帰ってしまった。これは逆にトランプ氏の抜群な外交能力だったのかも知れない。