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  • 第33回 内海英華さん(2020年2月)

    第33回のパーソナリティーインタビューは、『神戸新開地・喜楽館 内海英華のラジ関寄席』(毎週日曜 15:00~15:55放送)でパーソナリティを務める内海英華さん(2020年2月)にご登場いただきます!


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    師匠方から若手まで、上方落語の今がわかる番組『神戸新開地・喜楽館 内海英華のラジ関寄席』。パーソナリティを務めるのは、都々逸、端唄、小唄、漫談、踊りなどの様々な芸を舞台上で披露する「女道楽」(三味線漫談)として活躍する、内海英華さん。今回のインタビューでは、ラジオから発信する落語をはじめとする演芸の魅力や、噺家に触れる醍醐味などについて、古今の演芸の酸いも甘いも知る内海さんにお話を聞かせていただきました。

    私らのお稽古台は(上方落語の)四天王 楽屋でオールマイティに皆さんにかわいがっていただきました

    内海英華さん「女道楽」の道に進んでいく、続けていくきっかけになったものとは?

    「女道楽」ありきというわけではなかったんです。一番初め、子どもの時分は、ラジオでもテレビでもものすごく演芸番組が盛んなときで、吉本新喜劇も松竹新喜劇もあり、お笑いをベースにした番組がたくさんありました。大阪の人たちは、幼稚園の子からボケてツッコむというのが当たり前なので、別に何の疑いもなく私は小学校くらいから「噺家さんになりたいな」と思っていて、中学3年生のとき、噺家さんのところに弟子入りに行ったのですが、断られたんです。その後、18歳のときになぜか講談の道に、先代の三代目旭堂南陵のところに行くのですが。芸も難しければ、寄席の世界も難しいというのがあり、我々のときもいろいろ難しいことがあって、いったん講釈師をやめているんです。

    それでも、内海カッパ・今宮エビスという漫才師の内海カッパに拾ってもらいまして、この世界にまた戻ってくることができました。そこで、20歳ごろだったと思うのですが、師匠から、「どういうスタイルでこの世界でやっていくのか」と言われまして。ウチの師匠は私を『ヴォードヴィリアン』に、いわゆる音楽ショーとかで活躍できるような、漫才をさせたかったようです。ただ、私はひとりでしか舞台をやってきたことがなかったので、吾妻ひな子さんという三味線をもって漫談をする人が先輩にいたので、「その人みたいにやっていいですか」と相談をしたら、「お前がやりたかったら、それでやったらええがな」と師匠からお許しを得て、それから三味線を習いにいくことになりました。大阪(上方)の寄席の世界は、『素手』で行くより、なんか『飛び道具』があったほうが、お客さんから喜んでもらいやすいというのがありましたし。三味線をやって、三味線漫談で行く予定だったのですが……。

    その時分、お囃子さんが年配の方だったので、辞めたり引退とかしていて、ましてや、残っている偉いお師匠さんは、高いし、頼みにくいもの。私が三味線を練習しだしたと聞いた同期の人や、私らと同じ年代の人が、「英華、三味線を稽古しているのなら、終わってから一杯飲ますから、ちょっと手伝いに来てくれへんか」と。飲みたさと、お腹が減ってるから、三味線を弾きに行ったりしたんです。出囃子を弾いたり、落語ですから途中で入るものを入れたりとか。そういうのをやっているうちに、自分が行きたかった漫談のほうは全然仕事がなかったんですが。ただ、お囃子のほうは、噺家は増えてきているなか、三味線弾きはおれへんから、そっちへなぜか私のシフトが変わっていくんです。

    でも、そのなかで三代目(桂)春団治がかわいがってくださったり、先代の(桂)文枝師匠(五代目)もハメモン(三味線や太鼓などの効果音のこと)が出来るんやったらとかわいがってくれはる。(笑福亭)松鶴師匠(六代目)はうちの三味線の師匠を若いときからご存知やったので、「英華ちゃんはおふみさん(三味線の師匠、桑原ふみ子)のところで稽古してるからうまい!」って言ってくれて、松鶴師匠も声をかけてくださる。だから私らのお稽古台は(上方落語の)四天王だったんです。そこで、いろんな噺家さんの気持ちもわかるようになるし、落語の中身もわかるし、自分の本職である三味線漫談についてもそう。師匠が漫才ですから、お友達もみんな漫才の師匠、浪曲の師匠もすごく仲良くしていただけるし、私は楽屋でオールマイティに皆さんにかわいがっていただきました。

    なので、この『ラジ関寄席』とか、こういうもの(演芸番組やイベント)をするときも、(噺家や芸事について)そんなに苦労せず、調べなくても知っているからということでやっていくことができたのです。そして、いつか寄席の番組をしたいと思っていたとき、まず『ラジ関演芸』という、漫才の方を呼んで、ネタもしながらトークを流すという感じの番組をできることになり、そこから、今の『ラジ関寄席』に至ります。

    また、私は(神戸新聞)松方ホールでの独演会で文化庁の芸術祭大賞をいただいているのですが(「平成の女道楽 内海英華でございます in 神戸の成果」が平成24年度・第67回文化庁芸術祭賞大賞を受賞)、そのときに『ラジ関寄席』で(当時司会の)小川恵理子のところにゲストで行って、「ここ(ラジオ関西のあるビル)はすごい験がええからいつでもゲストで来るで!」といってたのを覚えています。それが、今、『ラジ関寄席』を担当することになり、その際には小川恵理子に思わず「ごめんな」とメールしました。

    みんな、お笑いを目指すいうところは一緒だが、扱うものが違う。
    100人おったら、100人全部違う

    オールマイティで、漫才師や噺家さんのこととかを全部ご存じということですが、専門の方たちによって、パーソナリティや性格が違ったりしますか?

    講談というのは歴史を語るもので、落語より笑うところは少ないのですが、内容とか呼吸とか、話芸で話をひきつけていくもので、「那須与一」や「忠臣蔵」のような話を伝える、その時代のキャスター、ニュースを伝える人たち。なので、ちょっと固い人が多いかなと(笑)。浪曲は三味線の人(曲師)と一緒にしなければいけない芸で、しゃべりながら歌う人と、伴奏がないとこれは成立しないもの。浪曲のほうは、昔からネタを一門で門外不出にするというか、「家の芸を守る」という気風がありました。しかし今は若い人が増えてきたので、やっと最近はネタの交流をするようになってきましたね。だから、昔は浪曲の人たちはだいたい一門の方たちでぐっと固まって、なかなか入っていきにくい空気があったかも知れません。今では若い浪曲師と噺家さんとの交流も増えて浪曲界も変わりつつあるように思いますね。そして、上方落語は大道芸から始まっています。だから現代でもサービス精神旺盛な方が多いと思います。
    講談、浪曲、落語の世界は徒弟制度(師匠、弟子)で、中でも落語界は縦のライン(縦社会)がすごいと思います。師匠が好きで弟子入りしましたが、そこには先に入った兄弟子が居て一番最後に入った人は師匠が好きで入ってきたのに、兄弟子から順番となり、先輩弟子が師匠のお世話の様子などを、ずっと見て覚える。そうして一門のルールや落語会の行儀を覚えていかなければならない。それは今でも変わりません。縦社会のイイところですね。でも、噺家の皆さんは面白いことを伝えたいとものすごく思っていて、講談や浪曲の人たちよりは少し、面白い事を考えている時間は多いかもしれませんね。落語家さんは、ものすごく面白いことを考えているお行儀のいい方たちです。漫才になるとこれがもっと砕けて、2人や3人だったりになるが、ここが一番よう練習しているかもしれない。漫才は、呼吸のええところはむちゃくちゃ練習してますわ。それプラス、『天才』という人たちが漫才のなかにはたまに出てくるが、これはその人が何をいうても面白い。ツッコミも天才やし、天才は天才同士でくっつくし。どんな性格といえば、みんな、お笑いを目指すいうところは一緒だが、扱うものが違う。100人おったら、100人全部違う。どんな商売の人とも、そういったところは変わりはないですね。

    今は、噺家さんも若い女性の方が増えてきていますが、当初との環境の違いは感じますか。

    ものすごい大きいですね。たとえば、『ラジ関寄席』にも出てくれた露の紫さんの師匠で、露の都さんという人が女でひとりで頑張っていたところに、私はジャンルは違いますが、(演芸の世界に)入っていったときの楽屋と、7年くらい後に桂あやめちゃんが入って来た楽屋とはずいぶん違いますね。私たちの時は、楽屋で若い女子がウロウロしてることが「邪魔!」みたいなところがありました。あやめちゃんのころになるとみんな兄弟子さんとかがすごく優しくて、守ってくれているという感じがありましたね。だから「ちょっとおねえちゃん違うよな、私らのときとは」と、それはよう言うて笑ってました(笑)。以前は女同士でしゃべっていることがないというか、一緒にならないように別々に出番を組まれます。同じ落語会で女が二人いてることなんて、まずなかったわけで。けれども、昭和の50年代は松竹芸能は女流大会という、始めから終いまで女流芸人が出る舞台が新世界の新花月であり、そういうところでの交流はあったのですが、普通なら女同士で交流はないものでした。

    さて、現在の「女道楽」としての活動を含め、芸事の奥深さを感じるものはありますか。

    一番初めに芸事として習ったのが講談でしたので、ベースのおしゃべりとしての講談の部分(が活きていることは)ものすごく大きい。だから、今でも2、3日(舞台で)しゃべらなかったら、(出番の前に)活舌が悪いなと思ったとき、講談の「修羅場」の一説をやったりとかします。また、落語の横で三味線を長いこと弾かせてもらっていたから、「こうやったら笑いがとれるんやな」とか、「呼吸」(テンポや間など)がわかったりして、その都度「じゃあ、それいただきますみたいな」感じで学んでいます。舞台の袖や横から見させていただいて、損なことは一つもないですね。今でもそうです。

    ラジオはいろんなものを想像できるし、私たちにとってはものすごい勉強になるもの

    ラジオという媒体を通じた落語など演芸の魅力についてはどう感じますか。

    落語や漫才など、目の前で見たら、実際に面白い顔をしたり面白い動きをするから笑うところもあるのですが、ラジオは顔とかが見えないので、逆に自分でいろんな形を想像できるんです。それと、運転しながらとか、お仕事をしながら聞いてくださる方がすごく多いなというのが、改めてお客さまから声をかけてくださるときにわかったこと。日曜日のこの(午後3時からの放送)時間にも仕事してはるとか、クルマなんて一番混む時間やしと思いますが、(『ラジ関寄席』は)邪魔にもならず、かといって、ずっと聞いていられるもので、ものすごく精神衛生上よいものではないかなと。その代わり、言葉をものすごく選ばなければいけないというのも、こちらにはあります。想像してもらえるように言葉の数も増えていくんですが、あまり足しすぎるとなんか理屈っぽくてイヤと思われてもあかんし、言葉が足りなかったら何を言っているかわかれへんわと思われるでしょうし。だから、ラジオはやってみて、私たちにとってはものすごい勉強になるものです。

    この番組は、新たな噺家さんを知る醍醐味もあるのでは?

    そうですね。実際に(噺家の)落語を、演芸場まで来なくても家で聞いてもらえるというのは、彼らにとっても大きなメリットがあると思うんです。ほんまに面白くなかったら周波数を変えられたら終い(しまい)ですから。実際にそういう意識でやっている噺家の方はやはりレベルが上がってきていますし。また、この番組では、落語だけではなく、最近、講談も入れていただいたり、(所属の)会社や一門が違う方も出たり、それがええ刺激になったりもしてます。(噺家の)一門によってもネタや笑わせ方も違いますし、そういうのも楽しんでいただければと思います。

    「『ラジ関寄席』に出えへんかったら、一人前の芸人と違うねん」と言うてもらえる番組に

    内海さんのなかで、2020年、新たな挑戦について考えていることは?

    私、今年還暦を迎えます。60になって1つの人間の節目として、若い人たちも育ってもらえるように、楽しく、時には厳しく番組をやっていきたいですね。芸人さんが若いときに「ラジ関寄席に、喜楽館に出してもろて、お客さんはいいんですが、楽屋が厳しかったですわ」というくらい、そんな感じで芸人を育ててみようかなと(笑)。「『ラジ関寄席』に出えへんかったら、一人前の芸人と違うねん」と言ってもらえるように頑張りたいです。そして、この番組でも何か企画モノなど考えていければ、より楽しめるものになるのかなと思っています。

    神戸新開地・喜楽館が2018年7月にオープンし、神戸の地に上方落語の定席が戻り、『ラジ関寄席』のベースもこの場所になりました。

    今まで噺家さんで神戸に行くとなれば、ほぼ三宮止まりで、せいぜい元町で行われている「もとまち寄席 恋雅亭」までだったんです。これ(喜楽館)ができたおかげで、新開地まで(常時)来ますからね。できたときは「どうやっていくねん」と、行き方もわからなかった噺家やお客さんも多かったのかも(笑)。これができる前の神戸松竹座があったときとか、我々の先輩方はみんな(新開地に)来てはった。松竹座が無くなってからは、(演芸の)ええもんを見に行くときは、神戸ではなく大阪に見に行くというくらいでしたが、これからは芦屋から西を、「繁昌亭いかんでも、喜楽館があるやん」と思ってもらえるようにできたらいいなと思います。要は「どうやって行ったらいいねん」となっても、「それでしたらね……」と、お客さんのなかでもたくさん言ってもらえるようになればと。そのためにも、(喜楽館を盛り上げるべく)ラジオでもやりますし、催し物もやっていければなと思います。

    では、最後にリスナーやタイムテーブル読者の方にメッセージをお願いします。

    上方落語はすごい面白いです。若いときに聞いた落語を、30代、50代、80代でそれぞれ聞いたとき、同じネタでありながら、どんどん感じ方が変わってきます。落語は皆さん方が人生経験を積んでいけば積んでいくほど、面白みが倍増していく芸。この『ラジ関寄席』を通じて、皆さん方には年代にあった落語を聞いていただいて、それをまた年数をかけてじっくりと楽しんでいただきたいと思います。

    【公開収録会】
    2月10日(月) 18:30~
    ●出演=笑福亭松喬、笑福亭生喬、森乃石松、笑福亭松五、笑福亭呂好
    3月9日(月) 18:30~
    ●料金=前売2,000円/当日2,500円(税込・全席指定席)
    ●会場・お問い合わせ=神戸新開地・喜楽館
    電話:078-335-7088(11:00~19:00)