《18世紀後半ごろの「享保雛」》は、⼥雛の座布団を重ねたような重ね着と丸く⼤きな緋袴が、この様式の特徴をよく⽰しています。
●江戸好みのお雛さま「古今雛(こきんびな)」の登場
江戸の庶民文化が興隆し始める安永年間(1772~81)ごろになると、武家だけでなく、町家においても雛まつりが盛んになっていきます。そうなると、江戸の人々は、京阪から取り寄せた古典的な雛人形にはあき足らず、自分たちの美意識に適った新しい雛を求める気運が高まります。
折しも、根付師でもあった名工・原舟月は、江戸の人々が思い描く夢の雛人形を作りあげて脚光をあびます。「古今雛」と名付けられた舟月の雛人形には、目に硝子玉や水晶玉をはめ込む“玉眼”の手法が用いられ、人形の目がぱっちりと開いたのです。まるで浮世絵から抜け出してきたような艶やかで活き活きとした雛の表情に庶民は魅了され、従来の享保雛から古今雛へと買い替えをする人が後を絶たなかったと伝わります。
展示されている《江戸の古今雛》は、舟月より時代が下り、幕末の名工とうたわれた桃柳軒玉山(とうりゅうけんぎょくざん)の作です。享保雛に比べると、とても自然な座り姿です。衣装には、江戸紫や浅葱などの色調が選ばれ、ここにも江戸好みが表現されています。
文化年間(1804〜18)の川柳に「祖母次郎左 母つっぱりに 嫁古今」という句があります。“次郎左(じろざ)”というのは、享保雛より以前に流行した「次郎左衛門雛」、“つっぱり”は両袖を横につっぱった「享保雛」、そして“古今”が新型の「古今雛」をさしています。三代の女性の雛人形の様式に時代の移り変わりが表れ、それらが同時に飾られている光景が浮かんでくるようです。(日本玩具博物館 学芸員・尾崎織女)
(つづく)
■日本玩具博物館
〒679-2143 兵庫県姫路市香寺町中仁671-3
電話 079-232-4388
入館料 大人600円、高大生400円、小人(4才以上)200円
休館日 毎週水曜日(祝日は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)
開館時間 10:00~17:00
アクセス JR「姫路」駅から播但線に乗り継ぎ「香呂」駅下車、東へ徒歩約15分 / 中国自動車道路「福崎」インターチェンジから南へ15分、播但連絡道路「船津」ランプより西へ5分
【公式HP】
◆「雛まつり~江戸と明治のお雛さま~」 学芸員によるリモート・ミュージアム・トーク
(2)あなたは「京阪好み」「江戸好み」?
(3)江戸は段飾り 京阪は御殿飾り
(4)雛道具に見る江戸と京阪の違い