旧優生保護法(1948~1996年)のもとで不妊手術を強制され、国が救済措置を怠ったとして、兵庫県内に住む聴覚障害者の夫婦2組と脳性まひがある女性が、国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟は、神戸地裁で8月3日に判決が言い渡される。(※記事中の写真は、原告ら当事者の承諾を得ています)
3月25日に開かれた口頭弁論で、聴覚障害がある女性(88)は「私の体を元に戻してほしい。国は謝罪してほしい」と手話で訴えた。夫(89)も手話で「妻が二度と赤ちゃんを産めない体にされてしまった」と悔しさをあらわにした。聴覚障害がある女性は1960年ごろ、妊娠した後に中絶手術と不妊手術を受けさせられた。もう一組の聴覚障害者の80代夫妻は、1968年ごろに夫が不妊手術を強制された(夫は2020年11月に病死)。
また、先天性の脳性まひで身体に障害がある神戸市の女性(65)は「裁判所には私たちの声を聞いてほしい。こんなことが二度とないようにしてほしい」と求めた。女性は12歳のころ、不妊手術を強いられた。理由の説明はなく、家族に病院に連れて行かれたという。
国側は、手術の違法性の有無にかかわらず、20年間の除斥期間(法律上定められた権利行使の期間。この期間を過ぎると権利が消滅する)が過ぎているとして、原告の賠償請求権が消滅しているなどと反論、請求棄却を求めている。
原告の弁護団は最終弁論で、旧優生保護法や、それに基づく国の教育が社会に植え付けた差別意識は根強いと指摘、国はこれまでにも、十分な被害者救済や差別是正をしなかったと指摘した。そして、国は現在も差別をなくす義務があると述べ、除斥期間の適用は不当だと主張して結審した。
国の統計では全国で少なくとも約2万5千人が不妊手術を受けた(強制・任意含む)とされている。原告側は、国が旧優生保護法で「不良な子孫の出生の防止」を目的として進めるなか、兵庫県が展開した「不幸な子どもの生まれない県民運動」(1966~1974年)などにつながったと指摘している。