旧優生保護法(1948~1996年)のもとで不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、 兵庫県内の男女5人(うち男性1人は係争中に死亡)が 国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が8月3日、神戸地裁で言い渡される。「最悪の人権侵害」と言われた法律をめぐる全国で6件目の判決で、初の賠償命令を勝ち取れるか注目される。
この訴訟は全国9地裁・支部で提訴(※)され、判決としては2019年5月の仙台地裁に続いて2020年6月の東京地裁、11月の大阪地裁、2021年1~2月の札幌地裁(2件)でも国家賠償請求が棄却された。仙台地裁と大阪地裁、札幌地裁の1件は旧優生保護法を違憲(憲法に反する)と判断したが、 東京地裁と札幌地裁のもう1件は違憲性について触れていない。そしていずれも賠償請求については手術から提訴までに20年以上が経過し賠償請求権が消滅しているとした。今回の神戸地裁でも、「強制不妊手術の違憲性」と20年の”時の壁”とされる「除斥期間」についてどう判断されるかが焦点となる。
※提訴は札幌地裁、仙台地裁、東京地裁、静岡地裁、静岡地裁・浜松支部、大阪地裁、神戸地裁、福岡地裁、熊本地裁の8地裁・1地裁支部
国の統計では全国で約2万5000人が不妊手術を受けたとされている。原告側は、国が旧優生保護法で「不良な子孫の出生の防止」を目的として進めるなか兵庫県が展開した「不幸な子どもの生まれない県民運動」(1966~1974年)などにつながったと指摘している。原告側は2020年7月30日の口頭弁論で「旧優生保護法の趣旨は障害者は生きる値打ちがない、子孫を残してはならないとしているが、旧法が『遺伝性』とした障害が実際に遺伝に基づくものか、その発現率はどうかなど、医学的な根拠は十分に確認されていない」と反論した。そして「当時、不妊手術を受けた本人への意思確認は全くなく『子どもを産み、育てる権利』を奪い(旧法が1996年に「母体保護法」へ改正されても)国は謝罪することなく、こうした事実を闇に葬った」と述べた。
続いて2020年11月12日に神戸地裁で開かれた第9回口頭弁論では、産婦人科専門医として原告5人とは別の障害者らに旧優生保護法に基づく同意による不妊手術をした経験がある男性医師(88・東京都)が原告側の証人として出廷した。体験などを話し、違法性を訴えた。男性医師は1950~60年代に同意のある不妊手術を複数回「法律(旧優生保護法)に定められた通りに」携わったことを明かした。平均すると1か月に1~2回のペース。その多くは、親が「自分がいなくなった後の子どもの将来を案じて」手術を要請してきたという。医師は手術の決断には旧優生保護法が影響したと断言した。 障害者団体との交流会で 強制不妊手術など障害者が「子どもを産めない」ことを正当化し、障害者から「産む」権利だけでなく、「生まれる」権利まで奪おうとしていたことを実感して、改めて旧優生保護法に疑問を抱くようになった」と振り返った。
同じ日、日本障害者協議会・代表(72・東京都)も法廷に立ち、「旧優生保護法は日本の障害者政策史上、最大の問題と認識している」「裁判の行方によっては日本の障害者の人権水準、政策の基準値に影響する」と証言した。代表は最大の問題とした根拠について▼国が誤った”障害者観”を打ち立てた▼優生思想の法制化▼障害者の苦しみを指摘した。
旧優生保護法をめぐる国の対応は2019年4月、議員立法で被害者に対する一時金支給法が成立。だが一律320万円という金額や、謝罪の主語を「われわれ」と曖昧にした点などに反発が相次いだ。