敏さんと妻・正子さんにとって、男が逮捕されるまでを「第一章」とするなら、今はこの先を見つめる「第2章」の真っ只中にいる。将太さんの13回忌は家族がそろい、すでに営まれた。命日は毎年、静かに過ごす。
「こんなに緻密に、納得いくまでとことん追い求める主人は見たことがない」。長く連れ添った正子さんが、これまで見せることがなかった敏さんに触れて驚き、心強く思う。
「将太が生きていたら、今ごろ酒でも飲みながらバカな話を交わしてね…」かつては仕事に没頭、家庭を顧みることはなかった。12年前のあの日から変わった。4人きょうだいの末っ子を突然失い、気付かされた親子の絆。男の起訴後、敏さんは担当検事に聞いた。「刑事裁判が始まったら、その日の法廷で思ったこと、感じたことをメディアを通じて発信したい。毎日話したい」。検事はそれを止めなかった。息子の命を奪われた親の気持ちをすべて知ってほしい、敏さんはその一心で今後開かれる裁判に臨む。
※成人犯罪の長期逃亡例では、1982年発生の松山・ホステス殺人事件の福田和子元受刑者(収監中の2005年に病死・逃亡期間約15年)、2007年発生の千葉・イギリス人女性英会話講師殺害事件の市橋達也受刑者(無期懲役・逃亡期間約2年7か月)が特徴的なものとして挙げられる。いずれも容疑者として特定されて指名手配され、逃亡中、顔に整形を施すなどしていた。