映像ジャーナリスト・玉本英子さん。柔らかい口調で語る内容は、戦禍の激しさと、女性や子どもたちの心の叫びだった。
2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1年が経過した。 国際移住機関(IOM) によると、 ウクライナ国内での避難者は約535万人と推計されている(1月23日現在)。侵攻開始から約半年後の2022年9月には600万人を超えていたが、数字の増減は、さまざまな要因が考えられる。決してウクライナ国内が落ち着いたとは言えない。収束の見通しが立っていない。
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玉本さんは1994年からアジアプレスに所属し、主に中東の紛争地を映像で取材。
アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、2004年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」の監督を務めた。
また、イラク・シリア取材では、戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った取材を続けた。
ヨーロッパは第二次世界大戦であれだけ悲惨な状況になり、さまざまな国際的枠組みを作ってきたにもかかわらず、ロシアの軍事侵攻を招いてしまった。それがどうしても看過できなくて、2022年夏、現地(ウクライナ南部・オデーサ)に向かい、女性と子どもたちを見つめた。
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ポーランドからバスでウクライナ入りした玉本さんは、美しいひまわり畑が広がるオデーサの風景を前に「とてもこの大地で戦争が起きているなんて、考えられない」と思った。
誰もが思う。なぜ、ロシアはウクライナへ軍事侵攻したのか。ロシアはNATO(北大西洋条約機構)に加入せず、ウクライナも加入はしていないが、政権によってロシア寄り、あるいはNATO寄りの道を歩んできた。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻から1年を前にした21日の年次演説で、ウクライナでの軍事作戦継続を強調する半面、長期化する紛争を終わらせる道筋は示していない。
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オデーサといえば、1905年に起きた戦艦ポチョムキンの反乱を描いたソビエトのサイレント映画「戦艦ポチョムキン」に登場する「ポチョムキンの階段」がある。
オデーサ(当時はオデッサ)の市民を虐殺する場面は、映画史上有名なシーンの一つで、多くの人々が訪れる場所だった。2020年から、世界的に感染が拡大した新型コロナウイルスの影響でダメージを受けていたが、軍事侵攻でさらに経済的ダメージを受けることになった。
戦争が始まると、ウクライナを讃える大きな看板もあちこちに掲げられるようになった。
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■避難と背中合わせの日常