【天川亮さん(以下、天川さん)】 会社名だと勘違いされることも多いのですが、実は、兵庫県手延素麺協同組合の「商標(商品名)」です。明治27(1894)年に誕生し、明治39(1906)年に特許局(現在の特許庁)に登録されました。
――1つの会社で製造されている商品ではなく、組合に加盟する複数の製造所(組合員)によって製造されているものなのですね。
【天川さん】 はい。兵庫県手延素麺協同組合の揖保乃糸生産組合員は、現在400軒ほどで、西播磨の3市2町(たつの市、姫路市、宍粟市、揖保郡太子町、佐用郡佐用町)に分布しています。1軒につき約5人のパートさんにお手伝いいただいており、約2000人の手によって揖保乃糸が製造されています。
――「揖保乃糸」と名乗るための規定や基準などは定められているのでしょうか?
【天川さん】 まず、そうめんには“機械そうめん”と“手延べそうめん”とがあります。揖保乃糸は手延べです。専用の小麦粉を使い、麺生地を合計24本も合わせ、熟成を重ねて、よりをかけながら細く長く伸ばしていく伝統の製法で作っています。
原材料は、基準を満たしたものを組合が一括仕入れし、組合員へ供給しています。さらに、検査指導員による格付け検査によって、麺の細さや香り、色などをチェック。検査に合格したものだけを「揖保乃糸」として、組合のそうめん専用の熟成倉庫に保管。特約販売店を通じて出荷しています。
このように、組合が、多くの組合員をまとめ、仕入れ・製造・販売・品質などの一元管理を行い、品質の安定した、高レベルで“安全安心”な製品を生産しているという仕組み自体が、揖保乃糸の特徴と言えます。
――揖保乃糸の品質を保持するために、理にかなったシステムになっているのですね。揖保乃糸は、播州地方で長い年月をかけて守り育まれてきた文化と言えそうです。
【天川さん】 揖保乃糸は、みずみずしく、ソフトでほどよいコシを兼ね備えた独特の食感、豊かな小麦の風味が特長です。播磨平野の温和な気候、揖保川の軟水、赤穂の塩、播磨人の職人気質といった気候風土とそこに暮らす人々の恵みがあってはじめて出来上がるのが「揖保乃糸」なのです。
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いかがでしたか? 続く第2回では、揖保乃糸の帯の色の意味や、そうめん以外の麺の存在、そうめんのおいしいゆで方についても紹介します。
(取材・文=中口のり子)