台風10号の影響で1日順延となった、第101回全国高校野球選手権大会、地元・兵庫代表の明石商が挑んだ3回戦。台風一過の青空の下で行われた16日の第3試合では、3万5千人の大観衆が、山口代表・宇部鴻城との8強入りをかけた熱戦を見守った。
試合は今大会5試合目となる延長戦にもつれ込む接戦となったが、10回裏、3年生の河野光輝がスクイズを決め、明石商が劇的なサヨナラ勝ち。「明商野球」全開で、ベスト8に駒を進めた。
明石商の先発は背番号10をつけた、3年生の杉戸理斗。1回表の宇部鴻城の攻撃で、1死1塁から3番打者の酒井隼平に、左中間に飛び込む先制の2点本塁打を浴びる。
その後、両チームあと1本が出ず、スコアボードにゼロが並ぶなかで迎えた、5回裏の明石商の攻撃。二死走者なしから、2回戦で決勝タイムリーを放っている3番・重宮涼が宇部鴻城の先発・岡田佑斗からバックスクリーンへソロホームランを叩き込み1点差とする。しかし、この回の反撃はこの1点止まり。
その後も膠着状態が続き、1-2でリードされて迎えた8回裏、明石商の攻撃。先頭の宮崎涼介がセンター前ヒットで出塁すると、狭間善徳監督はすかさず、チームで一番の俊足、窪田康太を代走に送る。続く福井雄太の犠打で2塁に進むと、快足を飛ばして三盗を決め1死3塁と足でかき回す。そして続く7番、清水のときに仕掛けたヒットエンドラン(結果は内野ゴロ)の間に窪田が本塁に滑り込み、明石商がついに同点に追い付いた。
9回の表裏も両校に得点がなく、延長戦に突入したなか、勝負が決したのは、10回裏。1死満塁のチャンスを作り、打席には8番の河野光輝。1ストライクからの2球目、1塁方向スクイズを決め、2時間30分におよぶかという熱戦に終止符を打った。
試合後、ヒーローの河野は、「監督から『お前に任せたぞ』という一言もあったし、(主将の)重宮からも、『胸張って決めてこい』と言われた。(1アウト満塁の場面で)打席に向かうとき、センバツでのエラー、バントミスなど、今までやってきたことをすべて思い出した。スタンドの応援もすごく盛り上がっていたので、ここは自分が決めるしかないという思いがあって、決めることができた。(1塁ベースを踏んで)振り返ると、選手全員が喜んでいて、『ありがとう』と言ってくれた。決めてよかったなと思ったし、今までで一番うれしかった」と歓喜の瞬間を振り返った。
投げては、先発の杉戸が10回155球をひとりで投げ抜き、初回の2点のみに抑える熱投を見せた。緩急のついた、変化球主体のピッチングで宇部鴻城打線をかわした杉戸は、「(先制ホームランを浴びたあと)監督や重宮、(捕手の)水上(桂)が、『切り替えて。あとは俺らが(点を)取るから』と言ってくれたので、あとは低めに低めに、水上のミットをめがけて投げた。9回、普通だったら僕に代打が送られる場面だったが、監督が『お前が行け!』と力強く言ってくれたので、延長になっても投げろということだと思い、最後は楽しんで投げた。次も投げる機会があれば、打ち取るピッチングを忘れず、打者の苦手なコースに投げたい」とクールに、しかし、力強く語った。
主将の重宮は、5回裏のホームランについて、「思いっきり振ると決めて打席に入って、その通りにしたら、結果的にホームランになってくれてよかった」と笑顔で振り返った。終わって1番に口から出た言葉は、「楽しかった」だったといい、その真意を聞くと、「ギリギリの試合をしていたら、焦りも出るし、自分のところに飛んでくるなよ、と思ったりもした。でも、去年の夏、今年の春と甲子園を経験してきて、場慣れというか、接戦でも余裕を持って戦えるようになった。そこから出た『楽しかった』だと思う」とのことだった。
チームを率いる明石商の狭間監督は、「ロースコアの展開は想定しておらず、4~5点の勝負になるかなと思っていた。両投手ともよく投げていた。(競り勝てたのは)『最後まであきらめるな、何か起こるぞ』、と常に言っていたからだと思う」と胸を張った。また、エースの中森俊介については、「今日は一切出す気はなかった。上(決勝戦)から逆算すると、今日投げると持たないと思ったから」と明かした。「そこで負けたらお前らの力やぞ」と、選手たちには発破をかけたという。
相手を上回る11本のヒットを放ちながら、最後は泥臭く小技で1点を奪う「明商野球」の真骨頂を見た試合と言えよう。試合後のくじ引きで、次の準々決勝は18日(日)の大会12日目第1試合、相手は八戸学院光星(青森)に決まり、昨年の再戦となる。
なお、16日の第1試合は、作新学院(栃木)が岡山学芸館(岡山)を18-0と投打で圧倒。第2試合は、中京学院大中京(岐阜)が終盤の大量得点で東海大相模(神奈川)を突き放し、9-4で勝利、44年ぶりのベスト8進出を決めた。第4試合は、八戸学院光星が海星(長崎)に7-6でサヨナラ勝ちした。(春名)
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