第20回 桂春蝶さん(2017年4月)
第20回のパーソナリティインタビューは『桂春蝶のバタフライエフェクト』(毎週火曜 10:00~15:00放送)でパーソナリティを務める桂春蝶さんにご登場いただきます!
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平均寿命的に言うと折り返し地点にあたる42歳で、人生の半分の卒業論文みたいな、そんなネタを披露させてもらえるのはとても大きなことだと感じます。
今年で5回目となる『ラジオ関西 桂春蝶独演会』ですが、何か特別な思い出はありますか?
去年、僕の師匠の三代目桂春團治が亡くなって、その師匠のネタということで『野崎詣り』というお噺とそれともう1つ、『たちきり』という、上方落語屈指の大ネタをさせていただきました。
その2つの噺の思い入れも大きいですが、今年披露するのは自作のお噺で、とても自分自身大切にしているネタです。
平均寿命的に言うと折り返し地点にあたる42歳で、人生の半分の卒業論文みたいな、そんなネタを披露させてもらえるのはとても大きなことだと感じます。
証言を聞きに沖縄に行ったというよりかはむしろ、この噺をやるための心構えというものをお稽古していただけたのかなと思えています。
今回の題材の沖縄戦について、たくさんの方に取材された中で、印象に残った言葉はありますか?
そのような言葉はたくさんありました。ある、元ひめゆり学徒隊の90歳のおばあさんがおっしゃっていた「今の人達もいろいろな悩みを持っていると思うけど、命があるだけで本当にありがたいことだから、それも大切にして、悩める事だって幸せなことなんだから、だから悩みもありがたいと思って頑張って生きていって欲しい」という言葉にはすごく説得力がありました。
さまざまな言葉を元に作品を作られていったのですね。
もう1人、石垣島に住んでいる元学徒隊の方にもお会いしたのですが、その方はいろんな証言を笑いながら話されるんです。
「横の子がね、フフフ、爆弾の破片がお腹に当たって、ウフフフ、それで血まみれになって、フフフ、それで死んじゃったのよ。その子は教師になるのが夢でね、1回だけでもいいから、生徒を教えてみたかったなと言いながら亡くなっちゃった。オホホホ」って、ずっと笑っているんです。どうして笑えるんですか?って尋ねると、「今までずっと泣いてきたから、いつの間にか笑えるようになった」と仰ったんです。その時に、この方は笑っているけど、決して笑いではなく涙がどこかで枯れちゃったんだろうなって思いました。
そういういろんな話を聞いていった時に、自分たちはなんてありがたい時代に生まれてきてるんだろうと思ったし、命は自分の為だけにあるものではないということも実感しました。「命は未来のいろんな人の為でもあって、もちろん自分の為でもあるけれど、未来につながっていくだれかの為でもある。あなたの一言が将来、誰かを救うかもしれない。あなたの行動が誰かの支えになるかもわからない。だから、天寿を全うするまで頑張って生きてね」という一言一言が『ニライカナイで逢いましょう』の屋台骨になっているのは間違いありません。証言を聞きに沖縄に行ったというよりかはむしろ、この噺をやるための心構えというものをお稽古していただけたのかなと思えています。
人間は結局、事実を変えることはできないけれど、解釈を変えることはできる。その一助となれるような噺を作っていきたいなと思っています。
今回の独演会で一番伝えたいことは何ですか?
「命の大切さ」ということになってくるんだとは思いますが、僕も思ったことがあるのですが、人生にさして意味を感じられないという人に、自分が持っているものに改めて目をむけて欲しいということです。今の時代って豊かだからないものばかり気になりがちだけど、実は持っているものに目を向ければ、そこにすごくぬくもりを感じられると思うんです。両親がそこにいることとか、友達がいることとか、ご飯が食べられるとか、仕事があるとか、或いは上司に怒られるということですら、ぬくもりを感じることができれば、一つ一つの物事への解釈が変わるような気がするんです。人間は結局、事実を変えることはできないけれど、解釈を変えることはできる。その一助となれるような噺を作っていきたいなと思っています。
自分自身と向き合うきっかけにしてほしい、ということですね。
僕自身、父親が壮絶な亡くなり方をしているのですが、自暴自棄になって自分の命を早めてしまう父親が横にいて、それがすごく怖かったのです。ですが、その時に植え付けられた死生観というものと向き合うことによってこの噺が出来上がっている。人間はみんな多かれ少なかれ、トラウマやコンプレックスを持っています。でも実は、そこから本当の芸が産まれることもある。負の感情も、自分の何かを表現するという時に原石になるものだと思います。一緒に番組をしている、塩田えみさんが教えてくれた「トラウマやコンプレックスも、人生の彩りと思うべきだ」という一言を僕は宝物にしています。
自分の本当の言葉を誠実に発し続けていたら、リスナーには伝わるんだと思いますよ。
お名前があがりましたが、塩田さんと一緒に作られている『桂春蝶のバタフライエフェクト』で噺家として大切にされていることはありますか?
ほとんど本音でしゃべるということです。やはり、きれいに成立しなければならないという事情もあると思いますが、そもそも僕は自分の中にある本当の言葉、自分の体温に近い言葉を放つことが誠実だと思うタイプなので、本音を大切にしています。自分の本当の言葉を誠実に発し続けていたら、リスナーには伝わるんだと思いますよ。今の世の中、本音だけではなかなか番組が成り立たないと思うんですが、そんな中、この番組を続けさせてくれているラジオ関西は懐が深いと思いますねぇ(笑)
僕の落語を聞きに来てくれた方が、一番幸せだった子供の頃に戻ったようなそういう心になってもらえたらなと思っています。
春蝶さんのファンの方へ、メッセージをお願いします!
今回の『ニライカナイで逢いましょう~ひめゆり学徒隊秘抄録~』は、今のところたった4公演行っただけですが、公演後10枚綴くらいのありえない量の手紙が届いたりするんです。きっと、いつの時代も人間の持っている苦しみの本質って変わらないと思います。ただ、戦争があった時代は状態が大変だから、誰もが大変だと思ってもらえるけれど、今の時代は平和に見えるからそれぞれの苦しみが密封されたままです。それをまさに吐き出す一瞬というか自分のかかえていた荷物や苦しみや悩みを全て手紙に書き綴って、人生を語ってくれるんです。決して軽い内容ではないですが、それを打ち明けてくれることが僕はすごく嬉しいです。お手紙をくれた方の負担を、たった少しだけでも軽くできたのかなと感じられるんです。噺を聞いたお客さんの心が開いて、開いたところから負担になっていたものを吐き出してくれて、みんなに楽になってもらえるように、毎日のお稽古はお祈りだと思って、お祈りを毎日重ねています。
独演会ではもう一席、爆笑系の噺を披露します! 2つの相反する噺で存分に笑って泣いて、心の状態を良くしましょう! 僕の落語を聞きに来てくれた方が、一番幸せだった子供の頃に戻ったようなそういう心になってもらえたらなと思っています。何かが降りてきた4月30日、お客様に語りかける準備をしておりますので、ぜひ心の荷物を軽くしに朝日ホールにお越しください。
【プロフィール】桂春蝶
大阪府出身。1975年1月14日生まれのO型。1994年に三代目桂春團治に入門。
2009年には三代目桂春蝶を襲名。2017年4月30日、「第5回 桂春蝶独演会 ニライカナイで逢いましょう~ひめゆり学徒隊秘抄録~」を開催。現在、ラジオ関西『桂春蝶のバタフライエフェクト』(毎週火曜 10:00~15:00放送)でパーソナリティを務める。
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