《2》震災報道の検証 【1】災害への対応体制について
【1】災害への対応体制について(震災前)
近畿地方では台風、水害などによる災害はある程度想定し、過去の経験もあったが、大地震に備えた想定はほとんどしていなかったのが現実だった。
昭和59年改訂の社内における『非常災害規定』はあるが、その存在すら知らない社員がほとんどで、危機管理体制の確立を図るべくその再改訂版を作る必要性を総務・報道現場デスクで話し合っていた矢先の被災であった。
(1)施設・器材面
明石架橋に伴う送信障害解決のため、平成6年11月、送信所を新設するとともに、マスター機器、自家発電装置などを更新していた。
社屋は昭和43年以来、特に耐震のための装備は更新していなかった。
最近では建物の老朽化が急速に進み、水もれや空調の故障などが頻繁であった。
●スタジオ・放送機器の災害への備え
・スタジオ
昭和43年建設の古いスタジオであったが、防音効果を上げるための浮き床構造が地震に対しても震動を吸収するという思わぬ威力を発揮し、周囲の破壊状況に比べ、損傷は極めて軽微であった。
・放送機器
各スタジオ音響設備は、ミキサー卓等の基本システムは建設時のものを、放送現場のニーズに沿うよう適宜、補修の更新を繰り返しながら、現在に至っており、特に耐震対策は考えていなかったが、下部はアンカーで固定していた。
反面、モニターSPやテープデッキ等は頻繁に場所を移動するため、キャスター付きの架台に乗っており、非常に不安定であり、案の定、地震により被害が大きかった。
マスター室の各機器は、一部を除いてアンカーボルトによる基部固定で、特に対策は施していないが、この大地震に充分耐えた。
●報道、中継のための車両、器材は日常の放送活動に使用する域を出ず、危機管理体制強化のため、現場からは更なる充実を求める声が常にあった。
この中で、ラジオカーは平成6年夏に四駆車を導入、はからずも今回の震災では大いに威力を発揮した。
●無線・中継システム
・無線
当社に割り当てられている周波数は、ナローバンドVHF151.73MHzとワイドバンドUHF464-00MHzである。 各車輛に搭載して番組中継に使用している。
神戸は、六甲山系が市街地に迫り、中継エリアが狭いので、受信基地を以下の通り設けている。
本社演奏所ビル屋上高さ55m
鉢伏山頂 高さ 250m
摩耶山山頂高さ 600m
淡路送信所高さ 135m
姫路支社 高さ35m
受信基地と演奏所は、専用線ないしINS回線で結んでいる。
このうち、災害時電源バック・アップがあるのは摩耶山及送信所で、本社演奏所は複合ビルのため、バック・アップは無い。
従って、震災時利用出来たのは、この2基地のみで、NTT専用線も切断することは無かった。
・中継システム
各出先からの音声信号は、演奏所マスターの中継台に一括して立ち上がり、EQレベル調整を行ったあと、各スタジオに配信していたが、今回、NTTの専用線にはほとんど被害が無く、特に問題は無かった。
●停電対策
・中波放送局として当然の停電対策はとっており、災害時にエンジンさえ起動すれば電源は、瞬時に確保出来る。
問題は燃料確保であり、通常の短時間停電であれば全く問題ないが、今度の地震のような想像を絶する規模では、数日間の燃料が必要となるにもかかわらず、消防法などにかかわることもあって、多量の備蓄は出来ず、当社では連続40時間分の備蓄のみであった。
(2)人員配置と連絡体制
非常災害時の人員配置については特にマニュアル化したものはなかった。
ただ報道の泊まりを廃止して以来、深夜・早朝(22:30~5:30)の緊急事態については、報道セクションのみの連絡体制は決めていた。
(守衛が報道デスクへ電話連絡。 次第によって非常呼集。)
また、放送事故等の緊急連絡網は管理職間にはとり決めがあった。
(3)報道方針と報道体制
災害報道については、具体的な方針と実施方法のマニュアルが昭和59年に改訂した『非常災害規定』には記載されてはいたが十分なものとは言えず、その上、『規定』そのものが忘れられた存在であったため、実体的にはマニュアルなしの状態であった。
昨年秋頃から編成制作局デスクを中心に災害時の報道体制などマニュアル作りを検討していた矢先であった。
また、現場では最近の九州・北海道の水害、地震などの災害に際しての地元ラジオ局の教訓などから、災害時には被害情報とともに安否情報や生活情報を中心としたレスキュー報道がラジオの使命であるという認識があった。
(4)他機関との情報、連絡体制
県とは、兵庫県防災会議での取り決めで兵庫県地域防災計画の中で『災害時における放送要請に関する協定』(昭和53年4月1日)がある。
兵庫県の災害に備えたシステム、兵庫衛星通信ネットワークに加入している。
神戸市を始めとする県内各自治体とは、特に災害時の取り決めはなかった。
また、ライフライン機関とは、特に災害に備えての取り決め、緊急連絡体制、情報提供システムはなかった。
警察他の防災機関
気象台
直通電話、マイコスシステム
消防局
火災通報電話(着信のみ)、消防局に特設スタジオあり