*おたかのシネマでトーク
今日は「 スパイの妻 」をご紹介しました。
監督:黒沢清
キャスト:蒼井優
高橋一生
東出昌大
竹下文雄
恒松祐里
他
元々NHKの高精細8Kカメラで撮影され6月に放送されたものを、サイズなどを調整して劇場版として公開されたもの。
“神戸”をキーワードとして作られたオリジナルストーリーで、太平洋戦争直前1940年の神戸を舞台に、時代の嵐に飲みこまれていく夫婦の物語。
脚本を書いたのは、監督もつとめた神戸出身の黒沢清と、彼の東京藝術大学院映像研究科での教え子である濱口竜介(「寝ても覚めても」の監督)と、その後輩の野原位(「ハッピーアワー」の脚本)の3人。
この作品で今年の第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)に輝いた黒沢清は、カンヌ国際映画祭やベネチア、ローマ、ベルリンなどの国際映画祭で受賞を重ね、世界中に熱狂的なファンを持つ映画監督。
その彼が、ロケ地、衣裳、美術などすべてにこだわり、当時の神戸の雰囲気を色濃く描き出した作品。
神戸出身の黒沢監督が初めて地元を舞台に撮った作品で、保存されている市電の車両や、垂水区にある旧グッゲンハイム邸(最近、グッゲンハイム氏の自宅ではなかったことが判明して話題になった)が、主人公の福原優作(高橋一生)聡子(蒼井優)夫妻の自宅として使われ、優作が経営する貿易商の会社は、兵庫区の旧加藤海運本社ビルでロケされるなど、昔を知る神戸っ子にとっては懐かしい筈。
太平洋戦争開戦前、出張先の満州で、偶然恐ろしい国家機密を知り、正義の為その事実を世界中に知らしめようとし、行動を起こそうとする優作。
聡子の幼馴染の津森泰治(東出昌大)が憲兵分隊長に任命され神戸にやって来て、福原家の華やかな暮らし向きを、こんな時代なので少し慎んだ方がいいと忠告した矢先に、満州に優作と一緒に行き、その後作家になるために有馬の旅館に籠っていた甥の竹下文雄(坂東龍汰)が、憲兵に捕まる。
一体、満州で彼らは何を見て、そしてどうしようとしているのか・・・?
そして妻の聡子は、スパイと疑われる夫を信じ、共に生きることができるのか?
神戸という町は、開かれた港を持ち、貿易に携わる外国人も多く、ハイカラで自由な雰囲気を持つ町。
映画上陸の地でもあり、新開地の聚楽館は、いつも映画ファンであふれていた。
そしてなんと優作が無類の映画好きで、妻や甥を出演させ、自作のスパイ映画を撮り会社の忘年会でその映画を上映していたという設定も、いかにも神戸らしい。
戦後75年の今年、一体あの戦争は何だったのかを定義するのは難しいけれど、国家が徐々に常軌を逸し、国民もその狂気にあおられるように恐ろしい狂乱状態に突き進んでいった1940年前後の日本にあって、その中で何としても正気を保っていこうとする人間の姿を、この映画の夫婦を通して描こうとしたという黒沢監督。
何度か出てきて印象に残る台詞“お見事です”。
まさにこのセリフ通りの“お見事”な、黒沢映画でした!
★おたか★
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